今回は、巨匠・タンゲ(故・丹下健三氏)設計の「ハナエモリ・ビル」です。実はこのビル、建て替えの計画があるんです。解体は世の常とは言え、チョット早すぎるんじゃないの。
わずか築31年で建て替え計画が出ている、モリハナエ・ビル。
新緑の季節の写真。
建物は緑の向こうです。
1階エントランスのそばに
チョコレート屋さん。春の日に
誘われて歩く人も多い。
竣工は1977年12月ですので、築30年ですね。同じく丹下さんの設計による、
国立代々木競技場(代々木オリンピックプール)は、1964年竣工ですから、築43年です。東京オリンピックの開催に備えて、代々木公園内、原宿駅そばに建設され、まだまだ現役の建物です。日本人は平気で建物を建て替えるんです。これは一種の国民性ですね。日本人のDNAのなかに、住宅や建築は単なる「消費財」としての意識が根強くあるような気がしてます。
それは、昔の日本家屋は木と紙でできてたわけで、凄く燃えやすい構造だったのが一因していると思われます。「火事とケンカは江戸の花」の言の通り、よく燃えるわけです。昔の農家なのでは離れで余生を過ごしていた老人が亡くなると、離れごとまるまる一棟、燃やしちゃう事すらあったんですから。要は病死などしたときには病原菌も一緒に死滅させちゃうと言う考えがあったのかも。

ガラスに並木が写り込み、建物が
町並みにとけ込んでいる。
神社仏閣などの特別な建築はともかく、木造の住宅などには寿命があり、ある程度使ったら立て直すし、火事で消滅することもやむなし、との刹那的な覚悟や達観があるんじゃないかと思ってます。
そんなDNAがあるから、わずか築31年のモリハナエ・ビルも、平気で立て替えの計画が出てくるわけです。欧米の石造りの、壊そうと思っても壊れない建物とは違って、建築にも輪廻転生(りんねてんしょう)の考えがあるのかも。

歩道から敷地に大きくオープン
・スペースを取っている。
まー、私が「もったいないから、このままあと30年は持つから使ったら」なんて発言したところで、お¥設けの経済の論理には勝てないわけで、壊されるときには壊されちゃいますね。

真ん中で回っているのは伊東隆通の
彫刻(多分)。
森英恵女史も「私、聞いてない」と困惑してるみたいだけどね。地下に降りてゆくと、確かに出て行ったテナント・スペースがそのまま空いてるし、所有する大林不動産はそのつもりみたいね。
表参道界隈はそんな建築ばかりなんです。まず、前回ご紹介したTOD’Sビルだけど、以前あそこには
「カフェ・ド・フロール」というパリでは超有名な、100年以上の歴史を持つ老舗カフェの支店があったんですよ。パリの本店にはピカソやサルトルなど、この店を愛した著名人が多く、そんなお客を相手にする名物ギャルソンがいたりして、日本のフロールもそうだったのかは知りませんけど、一度は入ってみたいカフェではありましたね。
安藤忠雄がぶっ壊した
「同潤会青山アパート」もそうだし、今は「GAP」のある明治通りとの交差点には「原宿セントラルアパート」があったんです。時代の空気を求めて日本の若きクリエーターたちが引き寄せられた超有名なアパートだったんです。
巨匠・丹下健三が手がけた美しいビル。カーテン・ウォールに注目!
 奇異をてらわないカーテン・ ウォールが品格を醸し出す。 |
 4階床の一部はキャンティで 持ち出してますね。 |
 適度な大きさのオープン ・スペースが嬉しい。 |
で、モリハナエ・ビルですが、このビルの見どころは、前面のガラス張りのカーテン・ウォール(curtain wall・帳壁。建築構造上、建物、梁 、床等で支え、建物の荷重を直接負担しない壁のこと)です。竣工当初はまだ珍しい工法だったようにも思います。正式名称は「青山大林ビルディング」で、丹下氏が手がけた商業施設の代表作の一つですね。
森英恵女史のファッション・デザイナーとしての拠点として建てられています。
 地下の骨董屋さんへの入り口。 ちょっと階段が急。 |
 天井が低く、一昔前の地下街的 雰囲気があります。 |  からっぽのお店もちらほらあって、 ちょっと淋しい。 |
現在は、地上階にファッション・ブティックや
チョコレート屋さん、銀行などが入居し、地下1階はオープン当初から、約30店からなるアンティークのお店が入ってます。階数5階建て(地下1階)の鉄骨鉄筋コンクリート造の建物です。
表参道の町並みに、最初に気品を与えた貴重なビルと言えます。

建物に囲まれる雰囲気が凄い。
奥に非常用の外部階段を
通して明かりが見える。
間違っていたらゴメンナサイなんですが、建物の前で回っている彫刻は、伊藤隆道の作品だと思います。私の好きな彫刻家なんですが、彼の他の作品との共通点が多いので、私は昔から伊藤隆道の作品だと思ってます。静かに回る彫刻は伊藤隆道そのもので、この建物に気高く上品な印象を与える一助になってます。この彫刻の足下にベンチがあって、道行く人のチョットした休息の場を提供してます。

空間構成はかなり大胆。
カーテン・ウォールのガラスの半分はハーフ・ミラーになってて、並木のケヤキを反射して建物を町並みに同化させちゃって、なかなか憎い演出が施されてます。ベンチ周りに立つと大きな蝶が羽を広げて立ってる人を包み込んでくれるような安心感を与えています。
最上階の床を見せている。
さらに、シンメトリーに見せて
いるが、実は違う作為がある。
冷たいアルミとガラスの外壁から、これだけの人の温もりのような感じを出すのは至難の業なんですが、この辺が巨匠・丹下さんの凄いところです。計画当初、森英恵女史の蝶のデザインがそのまま建築のモチーフとして使われたような気もしないではありませんね。
ネ、かなり大胆でしょ。
表参道の町並みに、最初に気品を与えた貴重なビルと言えます。たぶん、森英恵女史はこのビルを心底愛してると思いますね。
表参道界隈がファッションの街として発展するきっかけになりましたし、この町並みに著名建築家の建物が並ぶ先駆的存在ではあります。
正にこのビルが、表参道の町並みを「建築の美術館」化した切掛けとなったビルで、もう少しここにあって欲しいと切に願うビルなんです。
ビー) 建て替えるんだね。知らなかった。
カー) ちょっとさびしい気もするね。
ビー) ハナエモリってさ、ランドセルも出してるんだよね。
カー) だよねー。
ビー) 制服も出してるみたいだね。
カー) そうだね。はいはい。
カー) で、ハナエモリって何の人だっけ?
ビー) ・・・。今度、新しいビーカーに作り変えてあげるね。
カー) [壁]_・)チラッ