マッシュのオモハラおしゃれ散歩
2016.05.23

ファッション業界人が語る“私と原宿・表参道”(8) 齋藤秀明 さん(ヴァルカナイズ・ロンドン リテイル事業部統括セールスマネージャー)

原宿・表参道と切っても切り離せないのがファッションです。そこで、このコーナーでは、この地域を舞台に活躍するファッション業界関係者にスポットを当て、街との係わりやお仕事について語っていただきマッシュ!

今回のゲストは英国ファッションの殿堂、ヴァルカナイズ・ロンドンを運営するBLBGのセールスマネージャーとして活躍中の齋藤秀明さんです。

齋藤秀明さん

ヴァルカナイズ・ロンドン リテイル事業部統括セールスマネージャー齋藤秀明さん(ヴァルカナイズ・ロンドン リテイル事業部統括セールスマネージャー)

1974年千葉県生まれ。獣医になるため都内の大学に進学、卒業後は製薬会社へ就職。のちに獣医の道を志し、都内のいくつかの動物病院でインターン、獣医として勤務。そこから人生を見つめ直し、吉祥寺の雑貨店にてバイヤーを経験し、2008年にBLBG株式会社に入社。
入社後は英国と日本を行き来し、現地でグローブ・トロッターのトラベルケースやフォックス・アンブレラのリペア、紳士服のフィッティングなど多岐にわたる技術を習得する。
今年3月からは銀座のハケット ロンドンに異動。


ファッション業界に、こんな経歴の持ち主がいらしたとは!

マッシュは多くのファッション業界の方々と関わってきましたが、齋藤秀明さんの経歴にはビックリ仰天。こんな多様な経験をした方は聞いたことがありません。なにしろ、獣医さんの資格をお持ちなのですから!
兎にも角にも興味津々ですが、まずは学生時代のお話からうかがってみました。

齋藤さん:
高校時代までは地元・千葉でサッカーに一生懸命でした。進学の際、通常は理系か文系に分かれるものですよね。でも、私は高校3年生の11月まで高校サッカーに取り組んでいましたから、進路の選択に出遅れた不安がありました。
考えた結果、小学校のころから憧れていた獣医になろうと思い、都内の大学へ進学することに。子供のころから動物は大好きでしたね。

宮大工だった祖父の影響で職人の雰囲気に憧れがあり、そんな職人ぽさを獣医にも感じていたのです。また、当時、自分の飼っていた犬の具合がなかなかよくならなかったけれど、獣医さんに頼るしかなかったのが歯がゆくて、自分でも知識を得たい気持ちもあったように思います。
卒業後はすぐに獣医にならず、製薬会社に就職して2年間、大阪に。抗がん剤のメーカーでしたが、これは学生時代に抗がんに興味があって勉強していたためです。2年後、製薬会社を辞めて、改めて東京で獣医を目指しました。インターンののち、いくつかの動物病院で勤務医も経験しました。

齋藤さんが特に関わりの深いグローブ・トロッター、ハケット ロンドンをはじめ、英国ブランドが一堂に集まるショップ、ヴァルカナイズ・ロンドン。いまではすっかり地域のランドマークとなっています。

実はファッションへの思いも強かった!

さて、ここまでファッションのお話は皆無だと思いましたか? いえ、実は齋藤さんは学生時代からファッションへの思いも強い方だったのです。

齋藤さん:
宮大工だった祖父のおかげで、古いものや工場の雰囲気は非常に好きでした。仕事場は入ると怒られるのですが、それでも興味はありましたね。
父は旅行会社勤務だったので、海外と日本を行ったり来たり。また、父はVAN世代(関連記事:ファッション業界人が語る“私と原宿・表参道”(7)石津祥介さん)。
それもあって出張のたびに、GAPやL.L.Beanの洋服、アメリカ製のコンバースやVANSのスニーカーなどをおみやげに買ってきてくれました。当時、兄もそうしたファッションが好きだったので、その影響は強かったですね。

高校時代はアメ横に通いシップス、ABCマート、中野商店、白山眼鏡店、ショット……、そんなお店を巡る毎日。アルバイトをしては買い物の繰り返しでした(笑)。成人式で履いた英国靴のチーニーはソールを二回張り替えて、いまも現役。靴磨きをするのも大好きだったけれど、これはサッカー部でシューズを磨いていたことが影響していたかもしれませんね(笑)。
ともかく、ファッション好きは大学時代もそのまま。学校で着る白衣の立ち姿をキレイに見せたくて細身に自分で修理してしまったこともあったんですよ。

ヴァルカナイズ・ロンドン 青山店のハケット ロンドンのエリア。わざわざ英国から調度品やディスプレイが運ばれてくるほど、徹底した雰囲気づくりは一見の価値あり。

動物病院でのお仕事は順調でしたが、31歳のときに獣医の職を離れる決意をしたそうです。その理由はいったい?

齋藤さん:
勤務していた病院は貴重な症例を見る機会のある恵まれた環境でした。でも、31歳になったとき、いろいろと考えました。
獣医はこの年代になるとそろそろ開業を始めます。開業してこの先続けたいか?と自分に問いかける一方、動物にまつわる倫理観にまで思いが及んでいました。

そんなときに自分自身が客として通っていた吉祥寺の雑貨店からバイヤーにならないかと打診を受けたのです。
美大出身のオーナーはとてもセンスが良くてディスプレイも繊細。結局、獣医の道から転身して、引き受けたものの「棚卸し?上代?下代?」(棚卸しは在庫を数え、金額を確認する作業。上代は小売価格、下代は仕入れ値)と、仕事はなにもかも初めての経験。買い付けにはメルボルンへよく出かけて陶器のボトル、ジンジャーボトルなんかを探したのを覚えています。
現在の吉祥寺では大資本企業でなければ、なかなか出店が難しい。でも、当時はまだ衣食住の分野で個人経営の商店がやっていける時代だった。
このとき、パン屋勤めしていたお客さんが毎日のように顔を出してくれました。それが現在のヴァルカナイズ・ザ・カフェのクルーの一人なのです(関連記事:「ヴァルカナイズ・ザ・カフェ で英国の味に出会う!」)。

ヴァルカナイズ・ロンドン内のハケット ロンドンのエリアにて。業界広しといえども、傘やトラベルケースのリペアと紳士服のフィッティングの両方をこなす技術を持つ人は、齋藤さんをおいて他にはいないでしょう。


バイヤーからグローブ・トロッターのリペア職人へ

3、4年、バイヤーとして勤務後、吉祥寺の店舗が2号店を立ち上げたところで齋藤さんは次のステップを目指すことに。自分の方向性が定まってきた彼が次に挑戦したのが現在勤務するBLBG(ブリティッシュ・ラグジュアリーブランド・グループ)株式会社でした。2007年、同社が英国ブランド、グローブ・トロッターのリペア職人を募集していたのです。グローブ・トロッターは、英国王室を始め世界中の著名人も愛用するクラシックな高級トラベルケースです。さっそく、齋藤さんが応募したところ……。

齋藤さん:
バイヤー時代にわかったのが「英国製」のものは人気が高いということ。でも、具体的にそれが中国製と何が違うか?素材が違うのか?それとも製作の手間暇?そんな疑問を感じていたのと同時に製品のストーリーや、製作にも興味がありました。
そんなわけで、この応募は英国製のよさを自分でも知るいいチャンスと考えたわけです。しかし、結果は残念ながら不採用。
正直、ショックでしたね。でも、このとき何度か行われた面接の過程によって、自分の目指す方向がより明確化できました。そのことは自分でも感謝していたので、不採用ではありましたが、社長と部長にお礼の手紙を出しました。そのおかげもあったのでしょうか、2008年に再度チャンスがあってBLBG株式会社に入社することになったのです。

ズラリと並ぶグローブ・トロッター。英国王室にも愛用されてきた名品です。クラシックな雰囲気と耐久性、高級感に惚れ込む洒落者が後を絶ちません。

英国で学んだ修理のノウハウ

2008年の入社時、ヴァルカナイズ・ロンドンは現在よりも50mほど六本木通り寄りの向かい側にありました。この店舗では、現在も取り扱いのあるグローブ・トロッターやフォックス・アンブレラ、ターンブル&アンサーなどを取り揃え、地下にグローブ・トロッターのリペアコーナーを併設していたそうです。最初は修理技術の習得から始めたという齋藤さんに、当時の様子を聞いてみました。

齋藤さん:
入社したとき、二人先輩がいまして、みんながローテーションで英国へ研修に行きました。出張は半年に一回程度で、英国に行くと一か月ほど滞在してファクトリーで働くというものです。私を含め、3人がそれぞれ学んだ技術を教えあい、ノウハウを共有していました。

まず、感じたのは日本と英国とではお客様のニーズに大きな違いがあること。
英国では使い込んでいく自然な外見の劣化は気にしません。使用に支障がなければ問題ないという考え方です。が、日本では使用上問題がなくても、傷がついたらそれがわからないほどキレイにしたいというお客様が多い。そのため、英国では技術の習得だけではなく、英国の職人にその違いを伝えることも大きな仕事でした。

英国紳士のオンからオフまでもスタイリッシュに演出してくれるのがハケット ロンドンの魅力です。ヴァルカナイズ・ロンドンでは、レディメイドとパターンオーダーの両方を展開しています。

英国の仕事風景を教えてください

齋藤さん:
英国への出張はなにか必要に迫られて渡航するのが常でした。いつも最大サイズである33インチ(83×47×26cm)のグローブ・トロッターのトラベルケースに道具をぎっしり詰めて出かけます。ホテルを予約して、到着後は自分で空港から工場へ移動。出張中はホテルに滞在します。学生時代にバックパッカーで旅をしていたので、その経験がここで生かせました。

最初は生産ラインの中に入って自分の好きなグローブ・トロッターを一つ作って卒業となります。ヴァルカン・ファイバー(本体に使用する非常に頑丈な紙の素材)をカットして手で曲げて、コーナーをビス止め。ライニング(裏地)をカットして手で丁寧に張っていく。そんな作業を経て製品が出来上がるのです。

工場では朝7時に出社して16時まで働きます。その間、11時と15時にお茶の時間があり、16時からはパブでサッカーを見ながら呑むなど、とても英国的ですよ(笑)。でも、仕事場ではお邪魔している身ですから、現地の人よりも早く行って掃除をするなど努力もしました。
出張の際には英国靴の名門クロケット&ジョーンズのお店を見に行ったり、紳士洋品店やテーラーが多いジャーミンストリートサヴィル・ロウを見に行きました。現在、BLBG株式会社で取り扱うターンブル&アッサーなども訪れましたが、英国の紳士服の格好良さを再認識できたのも、こうした経験のおかげです。

なんと獣医の経験をグローブ・トロッターのリペア技術に応用!

齋藤さん:
グローブ・トロッターは長く使ってくるとハンドルの縫い目が緩んできます。けれど、定期的に縫い直すことで長く愛用いただけます。通常、こうした縫製修理には真っ直ぐな針を使いますが、私はカーブした外科用の針を使っていました。驚かれますが、この修理はオペと同じ感覚なのでうまく縫えるのです。
ほかにもリペアのご依頼以外の箇所で問題が発生しそうな場所を予見して修理していました。これはいうなれば、予防医学のようなものと言えます。

さらにハケット ロンドンのフィッティングも

齋藤さんはグローブ・トロッターのリペアだけではなく、紳士服のオーダースーツのフィッティングも手掛けています。これは注文主の希望を聞きながら採寸したうえで、よりその方に似合う洋服を作るためにアドバイスまで行うフィッターと呼ばれる職種です。生地選びに始まり、腕や足の太さ、腰の絞り具合など、わずかな差で人の印象は大きく変わります。それだけに高度なフィッティングには豊かな感性と知識、経験が要求されます。

齋藤さん:
私は実際に洋服を作るテーラーではなく、フィッターです。まずはお客様がどんな風に洋服を補正したいのかをヒアリング。採寸してから修正の仕方をご提案し、お互いのかっこよいと感じられる仕上がりに刷り合わせる仕事なのです。
獣医もグローブ・トロッターもフィッターも「治す」という点においては目指すところは同じだと思っています。

ロンドンで生活している人はみなさん、とてもお洒落で自分のスタイルを持っています。お洒落に気を使っていないように見えて、実はさりげなく気を使っているというのでしょうか。あからさまにお洒落をひけらかすことがないのです。また、流行に流されず、洋服や傘、文房具などの気に入ったものを一つ一つ大事に使い続ける文化があります。

英国に行くまではイタリアファッションをかっこいいと思っていました。でも、英国に行き、意識がガラっと変わってしまいました。着るものだけではありません。年配の方もハイドパークをランニングして体型を維持するなど、いいところでカッコをつけているんですよね。
英国の紳士服は構造も、感覚的なこともかっこいい。例えばシックなスーツに、ドットやスカルなどビックリするような柄をプリントした裏地を合わせている方も少なくありません。そんな英国紳士の自己主張にも刺激を受けましたね。

ハケット ロンドンの充実したオーダー用生地見本。こちらでは充実したオーダースーツを楽しむことが出来ます。齋藤さんによるとハケット ロンドンのオーダースーツは調整できる範囲が非常に細かく、パターンオーダーでありながら、フルオーダーに近い修正が可能だそうです。


骨董通りがいまは元気です

吉祥寺の次に、齋藤さんが仕事のベースとした表参道・原宿エリア。この街とのかかわりについて伺ってみました。

齋藤さん:
ショップの移り変わりが早く、絶えず見に来ないと変化していく街ですよね。そして、人気のブランドのフラッグシップショップは青山にある。
若いころは今とは違う場所にあったユナイテッドアローズ(編集部注:創業当初は神宮前六丁目の歩道橋横にあった)やエディフィスなど人気店のスタッフの着こなし、ポール・スミスのディスプレイなどをよく見に、このエリアに来ました。いまでも、ダイアナ元妃が亡くなったとき、ポール・スミスがショーウィンドウにバラの花を飾っていたのをよく覚えています。

今も好きなお店はIllminateラルフ ローレンJ.Crewマッキントッシュバブアーフロシャイムの1970年代のデッドストックジョン スメドレーなどを取り揃えています。

そして、246を挟んで落ち着いている骨董通りも好きなエリアです。大人がゆったりとした時間と空間のなかで、あせらずに買い物できる場所ではないでしょうか。
この4、5年で骨董通りに女性を含めて人通りが増え、元気になってきた実感がありますね。飲食店が充実してきたことで女性が増え、その結果、男性が増えているようです。土日も訪れる人が多く、優雅な場所ですが、若い人も見かけるようになり、お買い物エリアとして着実に充実してきました。骨董通りの今後も楽しみですね。

オシャレな人たちが多く働く骨董通りで、洗練された人たちを素敵にする仕事をしてきた齋藤さん。この取材では、仕事への情熱と、地域への愛情を持ちながら、楽しんで働いていらっしゃる雰囲気がよく伝わってきました。今後も齋藤さんのご活躍を応援しておりマッシュ!

ヴァルカナイズ・ロンドン 青山店
住所 東京都港区南青山5-8-5
TEL 03-5464-5255
営業時間 ショップ 11:00~20:00(日のみ 19:00まで)不定休/カフェ 12:00~19:00(水曜定休)
URL http://www.vulcanize-lon.com/

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